総合危機管理学会(SIMRIC)通信 No.15   2022/02/17

本号では、当学会の創設メンバーであり副会長の篠塚理事から寄稿をいただいております。篠塚先生のパキスタン在勤時代における話題について大変興味深いものをご提供いただきました。
SIMRiC通信では、危機管理に絡む多様なエッセイやコラムを、会員の皆様から募集しております。論文にする前の研究ノート的な内容でもかまいません。是非、事務局まで、気楽にご投稿いただければと存じます。是非、多数の方のご参加をお待ちしております。

◇コンテンツ◇
◇コンテンツ◇
1 【総合危機管理学会 コラム】
海抜3700m、天空のポロ決戦(パキススタン北部、シャンド-ル峠) 篠塚保(理事・副会長)
2【総合危機管理学会からのおしらせ】
   ・ 次回(第6回)学術集会及び総会について)
  ・ 学術論文投稿のお願い
3 【関連学会・関連イベント情報】

 

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1.【総合危機管理学会 コラム】 

~海抜3700m、天空のポロ決戦(パキスタン北部、シャンド-ル峠)

 篠塚 保(理事・副会長)  元東京理科大学 国際化推進センター長、元外務省国際テロ対策等大使

 

パキスタン北部地域とポロ競技
インド、パキスタンを含む南アジアで盛んなスポーツと言えば、一般に、クリケット、ホッケーが有名であるが、パキスタン北部の山岳地域では、フリーポロと言われる古い形式のポロが盛んであることは余り知られていない。筆者は、2001年から2003年にかけてパキスタンに駐在していた際、何度かこの地方を訪問し、ポロ観戦の機会があったが、氷雪に輝く高峰の谷間の町々で、人馬一体となってポロが盛んに行われ、人々が熱狂しているのは、何とも勇壮であり、又、優雅でもある。
パキスタンの北部地域は、ヒマラヤ山脈の北西に位置するカラコルム山脈、ヒンドウクシュ山脈に代表される6,7千m級の氷雪の高峰が連なる大山岳地帯であり、因みに、8000mを超える世界の高峰14座のうち、世界第2位の高さを誇るK2を含めた4座がこの地域に存在している。同時にこの地域は、昔から中央アジアとインド、中国とをつなぐ交通の要所として名高く、特に仏教が東に伝わる際の重要なルートであった他、ヒンドウー教、イスラム教をも伝播し、各地に関連した遺跡が残っている。このように山岳美、あるいは歴史、文化面でも、興味深いパキスタン北部地域であるが、地元の人々は、雪解け水を利用した灌漑農業、あるいは観光、織物業で生計を立てており、その生活ぶりは至って質素である。なお、この地方のフンザ村は、最後の桃源郷とも言われ、「風の谷のナウシカ」、あるいは映画化された宮本輝原作の「草原の椅子」の舞台となった場所としても知られる。又、北杜夫がデイラン峰登山隊の一員として参加した体験をベースに執筆した小説「白きたおやかな峰」の舞台となった場所でもある。

パキスタンの「フリーポロ」
ここパキスタン北部地域では、ポロは、スポーツの王様と言われる。北方地域の交通、観光の中心であるギルギットのポロ競技場の脇のプレートには「他の人が何をやろうと、ゲームの王様(ポロ)は依然としてゲームの王様である」と刻まれている。もともとは、土候国、あるいは敵対するグループ、村の間での「もめ事」をポロ試合により雌雄を決していたと言われる。負ければ、領土、賠償金、あるいは死さえも甘受しなければならなかった。
地元の関係者によれば、北方地域で行われているポロは、ルールに縛られない自由な形式の「フリーポロ」と言われるものであり、現在、欧米、あるいはアルゼンテインで盛んに行われている厳格なルールに基づいて行われているポロとは異なる。通常、一回の休憩を挟んで約1時間程度、騎乗した選手がステイックでひたすらボールを追い、ゴールを目指して戦うというものであり、原則として審判も置かない。従って、スポーツとして確立している欧米のそれと違い、最初に始まった時の形式に近い形で行われているようである。

海抜3700mでのポロ対決
このようにして、この地方の主な町には、必ずと言って良いほど、馬蹄型のポロ競技場があり、盛んに試合が行われているが、この地方の最高にして最大のポロ・イベントは、パキスタン北方地域のライバル関係にある2つの町、チトラルとギルギットとの間で行われる対抗試合である。毎年7月第2週に3日間にわたり、双方の町の中間地点であるシャンドール峠で行われる。この峠は、パキスタン西北部からアフガニスタンにかけて横たわるヒンドウクッシュ山脈の海抜3700mのところに位置することから、ここでのポロは、世界で最も高い地点で行われる試合として有名である。チトラルはこの峠の西に位置し、パキスタン北西辺境州北部の中心都市であり、また、この峠の東に位置するギルギットは、英国支配時代から現在に至るまでカシミール地方の軍事、交通の拠点の一つである。双方の町とも、インダス川支流から雪解けの水を利用して出来たオアシスの町で、灌漑農業が盛んである。

天国と地獄上
シャンドール峠での大会は、19世紀中頃、この地方に駐在していたポロ好きの英国軍人のアイデアで始まったようであるが、彼の夢は、天国への中間点と言われるこの峠で、満月の夜にポロの試合をすることであったと言われる。筆者は、残念ながら実際にこの峠での試合を観戦する機会はなかったが、2002年5月に、チトラルからギルギットまでヘリコプターで移動する途次、少々危険なフライトではあったが、退役軍人パイロットの計らいで、上空からこの峠を見る機会があった。そこは、5月上旬でもあり、うっすらと雪に覆われた寒々しい印象の場所ではあったが、平坦な高原の中に細長い形のポロ競技場の囲いが見え、7月の大会での人々の熱狂が伝わってくるようであった。
現地関係者の話によれば、7月のシャンドール峠は、高地にあるため、日中の温度は40度、夜間はマイナス10度にまで下がる厳しい気候条件にあるが、天国への中間点と言われるほど美しい場所に変身するとのことである。逆に、この峠に至るまでの、山腹を削って造られた厳しい山道は、狭く、急峻で、一歩間違えば谷底の地獄へ落ちるというほどの難所である。パキスタン北部山岳地帯の道路事情は、1978年に中国の協力により完成したカラコルムハイウェイ等の幹線道路を除けば、多くの道が舗装もされていない山の中腹を削っただけの山道であり、山側からは落石、谷側は転落の危険を常に伴っての走行になるのが通常である。筆者も何度となく北部地域に行く機会があったが、落石、あるいは土砂によって道が塞がれ、途方に暮れたことが何度となくあったことが思い出される。特に、狭い道で、対向車があるときには細心の注意が必要となる。
この峠へは、四輪駆動車を使っても、西方に位置するチトラルからたっぷり9時間、また東方のギルギットからは13時間要するとのことである。選手、馬、あるいは観衆とも峠にたどり着くまで極端に言えば命がけの移動となるが、特に、馬を峠に運び上げるのは最も骨の折れる仕事で、高知順応の必要もあり、5日程度かけて移動させるとのことである。このようなエネルギーと危険を冒しても、この世界最高地点でのポロ大会に地元の人々の血が騒ぐのは、その昔、「もめ事」はポロの試合で決着をつけたとの伝統が、今に生きているからかも知れない。

(了)

 

2.【総合危機管理学会からのお知らせ】

(1) 総合危機管理学会 第6回学術集会及び総会のご案内
次回の総合危機管理学会第6回学術集会及び総会は、2022年5月21日(土)に開催予定です、
集会大会長は東京理科大学教授の大宮喜文先生で、テーマは「熱中症」がキーワードとなります。
対面、ハイブリッド、WEB開催のいずれかになるかは今後の状況を見ながら決定いたします。詳細が固まり次第、お知らせいたします。

(2) 学術論文投稿のお願い
学会誌「総合危機管理」では、随時学会員の皆様よりの学術論文の投稿を募集しています。
次回の定例発行(総合危機管理 第6号)は、2022年3月11日の予定としております。内容は前回の大学術集会の内容の掲載、及び一般論文となります。
当学会では随時投稿を受け付けております。ご投稿いただいた学術論文は査読手続きを得て、掲載が受理されたものより随時「総合危機管理」へと掲載いたします。投稿規定などは学会ホームページ(http://www.simric.jp/journal/information-authors/)で公開しておりますのでご確認ください。皆様の論文投稿を編集委員一同お待ちしております。

3.【危機管理にかかわる他学会、他組織での関連イベント・行事等】

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関連学会・関連イベント情報

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〇東日本大震災語りべシンポジウム「かたりつぎ in 大船渡」
主催・共催:東北大学災害科学国際研究所、かたりつぎ実行委員会・大船渡市
後援:宮城県、岩手県、
日時:2022 年 2 月 26 日(土)14:00 開演(開場 13:20)
会場:大船渡市立三陸公民館 大ホール(岩手県大船渡市)
入場料:無料
詳細:http://www.shinrokuden.irides.tohoku.ac.jp/symposium/kataritsugi2021-2/

〇第 2 回学校安全推進センターフォーラム「学校安全の推進とその社会実装を目指して」
~セーフティプロモーションスクールの活動成果の共有を通じて~
・主催:大阪教育大学 学校安全推進センター
・共催:日本セーフティプロモーションスクール協議会
・後援:文部科学省ほか
・日程:2022 年 3 月 2 日(水)10:30~17:00 
・開催形式:《対面会場参加者の受付は、10:00 より、学校安全推進センターで行います。》
《オンライン参加者の受付は、各発表開始時に Zoom 画面で行います。》
・場所:対面会場:大阪教育大学 学校安全推進センター(池田市)
・詳細:http://ncssp.osaka-kyoiku.ac.jp/information_report/2559

〇第 27 回日本災害医学会総会・学術集会
・主催:日本災害医学会
・日程:2022 年 3 月 3 日(木)~3 月 5 日(土)
・場所:広島国際会議場 アステールプラザ 広島文化学園 HBG ホールほか
・会長:中田敬司(神戸学院大学・教授)
・詳細:https://site2.convention.co.jp/27jadm/

〇地区防災計画学会第 8 回大会「多様化・激甚化する災害とコミュニティ防災」
・主催:地区防災計画学会
・日程:2022 年 3 月 5 日(土)9:30~17:30(予定)
・場所:オンライン開催(YouTube による同時配信・再放送なし)
・詳細:https://gakkai.chiku-bousai.jp/ev220305.html

○仙台防災未来フォーラム 2022「杜の都の未来につなぐ わたしたちの防災・環境」
・主催:仙台市
・日程:2022 年 3 月 5 日(土)~6 日(日)
・会場:仙台国際センター展示棟ほか
・詳細:https://sendai-resilience.jp/mirai-forum2022/

 

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