総合危機管理学会(SIMRIC)通信 No.04 2018/10/24

SIMRiC通信の第4号を発行いたします。今回は、先月の北海道胆振東部地震に遭遇した本学会会員による体験エッセイ、及び、本学会佐藤理事によるコラムを掲載しています。学会員の皆様による時宜を得たエッセイをはじめ危機管理に関する意見や提言など、どしどしお寄せ下さい。(常務委員会)
◇コンテンツ◇
1 【総合危機管理学会「特別エッセイ」】 (戸田博也)
2 【総合危機管理学会 コラム】 (佐藤和彦)
3 【学会からのおしらせ】
・学会誌編集委員会報告、後援イベントのお知らせ
4 【危機管理にかかわる他学会、他組織での関連イベント・行事等】
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1.【総合危機管理学会「特別エッセイ」】

「北海道胆振東部地震」被災レポート【2018年9月6日~8日】(その1)
-現地での体感と教訓-                  千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科 准教授 戸田 博也

2018年9月6日3時7分59.3秒、北海道胆振東部地震が発生した。その時、私は札幌市の「すすきの」にいた。つまり、見事に100%被災したということである。9月2日から6日の旅行日程で国際法学会(9月3日~5日)に参加するために札幌にいたわけだが、その時に体感したこと(したがって、体感なので客観的なデータとは正確には一致しないこともある)ならびにそこから得ることができる教訓について報告を行う。
まずは、時系列に応じて(正確な時間はその根拠がLINE、メール等で残っている場合で必要と思われるもののみを表記)、状況をリアルに再現することとし、それが終了した時点で、そこから得ることができる教訓を検討してみたいと思う。ただし、今後、数回に分けて連載する予定であり、本報告のみで全てを述べるわけではない。今後の報告に期待していただきたい。
本報告では、以下、9月6日の地震発生時の状況と体感(最も緊張感がみなぎる部分)を述べることとする。
・被災地:北海道札幌市「すすきの」のホテル6階。
・【9月6日3時ごろ】 何の前触れもなく激しい横揺れ。おそらく、1~2分ほど。ゆれが弱くなってからすぐに部屋のドアを開けて固定。異常な事態であることが直感的に解るほどのゆれ。3・11の時には東京の茗荷谷「拓殖大学キャンパス」の講義室2階で被災したが、その時のゆれよりは明らかに大きかったので、震度4強~5弱を越えた規模であることを確信。
・電気は普通についていたので、とりあえず、ほっとする。情報がほしいので、テレビをつけ、窓から外を見回し、状況確認。ホテルの外も電気がついているので、停電は免れたと判断。テレビでは地震の震源や規模、停電になっている地域の情報を報道している。
・大変なことになっているようだと確信した最中(おそらく地震発生後5分程度して)、いきなり、真っ暗になり非常灯のみとなる。窓から外を確認すると、どこも、点灯は非常灯のみで、あとは真っ暗。
・【4時3分】 同じホテルに泊まっていた弟(同じ学会【国際法学会】の会員で一緒に参加)にLINEで大丈夫かどうかの連絡。2時間後、弟から「大丈夫」との返答【6時6分】。
・小さなゆれが断続的に起きていたが、それほど大きなものではなかったので、一応ドアは閉める。ホテルのスタッフからの何らかの指示があるかもしれなかったので、部屋で待機。夜中4時なので、できれば、ホテルスタッフが被害状況の確認に来ることを期待しつつ、待っていたらいつの間にか寝ていた。
・3時間ほどして起きたが、電気は全く復旧しておらず、本日6日の夕方の飛行機(ジェットスター)で成田に戻る予定であったので、厄介なことになったと判断。新千歳空港へ向かうためには電車がだめならどのような手段があるか、しばし検討の必要性を考える。テレビからの情報は得られないので、スマホで確認するが、たいした情報はない。
・【7時13分】 そこにタイムリーなことに、友人から、LINEで「地震は大丈夫ですか?」との連絡。身体は大丈夫だが、情報が全くないので、情報がほしい旨を伝える。緊迫した状況を理解した友人が、「空港が止まっています」という連絡【7時23分】。また、北海道災害関連情報(NHK災害情報)のアドレスを送ってくれた。さらに、「新千歳空港は、今日は完全閉鎖です」との連絡【7時25分】。さらにまた、「スマホのバッテリーを早めに買ったほうが良いですね」とのアドバイスをくれる。
・【8時37分】 いろいろと思案をしていた最中、同僚の木村先生(注:本学会常務委員長である木村栄宏教授)から「大丈夫ですか?」とのLINEが入る。
ミスター「危機管理」ともいえる先生からの連絡なので、助かったと思いつつ、こちらの状況を正確に伝える。身体は大丈夫、札幌市内のホテルにいる、新千歳空港が全面機能停止で東京に帰るめどが立たない、停電で全く復旧しない、等々。
・【8時40分ごろ】 フロントに向かうべく部屋を出る。エレベーターが使えないので、非常階段に向かおうとしたら、向かいにお泊りのお客さんが非常階段に案内してくれた。一緒に1階まで下りていく。ホテルフロントで現時点においてホテルが把握している情報を聞く(現時点で私が把握している情報以上のものはない)。こちらからは、本日がチェックアウトの日だが、空港閉鎖で帰れないので、とりあえず、自分と弟の2名分の延泊を申し出る。ホテルフロントの対応は、本日の宿泊客がどれくらいか分からないので、キャンセル待ちにさせてもらうが、とりあえず今の部屋にいても良いとの返答。ニュアンス的に大丈夫だろうと実感(これで追い出される心配はないだろう、とりあえず居所を確保【ここは非常に重要】)。心配なので弟の部屋に向かう。弟の部屋をノックすると、弟が眠そうに出てきた。私がこれまでに得た情報を全て伝え、本日はまず新千歳空港から飛行機で帰るのは無理である旨を強調すると、弟は納得した様子。さあ、ここからどうするかという今後の行動計画について、2人で検討する。いずれにしても、電気が復旧しない限り、動きようがないので、(時間はたっぷりあるので)もう少しくつろいでから、「すすきの」の状況確認に出ることを決定。
・【8時56分~】 木村先生から適切な情報を断続的に受け取る。さすが、ミスター「危機管理」と納得。以下は木村先生との一連のやり取り。ただし、このやり取りの間、ずっとホテルの部屋にいたわけではない。
①【8時56分】本日、新千歳空港は全便休止。
②【9時14分】停電は平気か、テレビ・メール等は通じているか等の問い合わせ。(私のほうから)テレビは全く見ることができない状況、メールは大丈夫、バッテリーが徹底して売り切れで充電できないとの返答。
③【9時23分】私が札幌のホテルで待機中であること、LINEはバッテリーを食うので他の手段でやり取りをすることの確認。
④【11時54分】メールは電源消費が最も少ない、メールで私(戸田)の被災情報を千葉科学大学内に周知、丘珠(おかだま)空港(新千歳とは別の札幌の空港、小規模)は機能していることの連絡。
⑤【12時9分】丘珠空港から函館か釧路、そこから本州というルート、あるいは丘珠空港から本州というルートがあるが、残念ながら満席との連絡。(私のほうでは)このルートは消えたか…と落胆。
⑥【12時33分】札幌市役所で携帯の電源対応(充電サービス)をしているのが一瞬テレビで映ったという連絡。
⑦【12時42分】新千歳空港は滑走路自体には異常がないとのこと、帯広-羽田フライトは通常通り運行という情報提供。
(以下、次号に続く)

2 <総合危機管理学会「コラム」>

危機管理学の倫理              一般財団法人日本総合研究所 主席研究員,BRFスタンダード統計株式会社 代表取締役 佐藤和彦

一寸先は闇

「ほんの先のことでも、将来のことは全く予測できない」ことは昔から認識されてきました。英語では、The unexpected always happens.「予期せぬことは常に起こる」。洋の東西を問わず、将来が不確実であることは、文化・時空を超えた共通認識です。
“時間”とは何か。科学の重要なテーマですが、悲惨な未来をより良いものにするため、もしくはより良い現在を作り出すため、未来から現在へ、または現在から過去に戻るという時間の自由な操作は古くからの人間の夢の一つでした。タイムマシーンに代表されるような時間を操作するSFは枚挙にいとまがありません。19世紀後半のH.G.ウエルズの「タイム・マシーン」から1985年映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」。AIが支配するようになった世界で再び人間が主導権を握るため反乱を起こす。反乱を元から絶つため、反乱軍の指導者の抹殺を図るために未来から現在へ刺客を送る物語が、世界中で大ヒットしたハリウッド映画「ターミネーター」です。
現実世界では、時間が不可逆的であること、つまり、過去には戻れないとすれば、将来を覗いて帰って来れないわけですから、将来は常に未知です。危機管理の根幹は、未知で不確実な将来に対して合理的に備えるための知見の蓄積にあるのではないでしょうか。その意味で、The unexpected always happens.「予期せぬことは常に起こる」は、危機管理を学として研究する者にとって、示唆に富んでいます。予め将来のインシデントの発生を見越して対策を立てておくことが危機管理の第一歩であるとすれば、“予期せぬ”ことが常に起こるという経験則は、「予期を前提とできないこと」を意味しているからです!


将来を作り出す時代の危機管理学の倫理

GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に代表される企業は、データを大量に収集し、人口知能を用いたデータ分析を行い、個人単位で最適化した情報(広告)を提供することで、一昔前の企業では考えられなかったほど人々の行動を意図する方向に変容(消費行動)できるようになってきました。2016年の米国大統領選挙ではSNSを使用した世論操作について、Facebookから情報を入手した英選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカの行動が大きな社会問題となりました。
2020年の東京オリンピックを迎えたわが国では、連日のように競技団体幹部のパワハラ等の不祥事
が報道されていますが、不祥事から発する評判の低下を最小限に抑えることも危機管理学の一分野です。しかし、ソフト面のダメージコントロールに、ケンブリッジ・アナリティカのようなコンサルティング会社のノウハウを活用して良いものでしょうか。危機管理学が科学とするならば、危機管理学の知見の活用について、その専門家たる研究者は社会的影響への配慮を含めた慎重な検討が求められるはずです。
本来、未知であるはずの将来がビックデータと止まるところを知らないコンピュータの計算速度の向上、そして分析手法としての人工知能が加わり、株価の予測やテロの発生等の経済・社会的な現象の発生確率は、相当程度が既知になっているはずです。ひょっとすると自然災害の発生確率についても既に情報の非対称性が存在しているのかもしれません。
“予期せぬ”ことが常に起こるという経験則が示す学問的前提の検討とともに、予期せぬはずの将来がテクノロジーによって操作されている可能性が捨てきれない今、危機管理学の側から「危機管理の倫理」なる議論を発することも総合危機管理学会の存在意義ではないでしょうか。

(※常務委員会による注記:視点は違いますが、「危機管理の倫理」と題して本学会第2回学術集会で会員が発表したものを元とした論文がhttp://id.nii.ac.jp/1222/00000235/ に掲載されていますのでご紹介いたします。)

3【学会からのお知らせ】

(1) 学会誌「総合危機管理」編集委員会報告【進捗報告および学術論文投稿のお願い】

現在、5月に開催した総合危機管理学会学術集会の内容を中心とした学会誌「総合危機管理」の第3号の編集を進めています。
また、学会誌「総合危機管理」では、随時学会員の皆様よりの学術論文の投稿を募集しています。ご投稿いただいた学術論文は査読手続きを得て、掲載が受理されたものより随時「総合危機管理」へと掲載いたします。投稿規定などは学会ホームページで公開しておりますのでご確認ください(http://www.simric.jp/journal/information-authors/)。皆様の論文投稿を編集委員一同お待ちしております。

(2) 学会後援イベント「危機管理学シンポジウム:フィンテックがつくる光と影~金融リスク管理と現代社会~」のご案内

総合危機管理学会が後援する以下のシンポジウムが開催されます。Fintechの問題を中心に、現代社会における金融リスクなどについて講演を行い、議論を深めます。ぜひご参加ください。(※本シンポジウムは、7月8日に開催を予定していましたが、西日本豪雨災害のために開催が順延となっていたものです)
○危機管理学シンポジウム:フィンテックがつくる光と影~金融リスク管理と現代社会~
・主催:倉敷芸術科学大学危機管理学部 共催:千葉科学大学危機管理学部
後援:総合危機管理学会、倉敷市、倉敷商工会議所
・日程:2018 年12月2日(日)
・場所:倉敷芸術科学大学1号館(岡山県倉敷市連島町西之浦2640)
・詳細:http://www.kusa.ac.jp/post20181009
プログラム
講演1:技術革新と金融リスク
倉敷芸術科学大学危機管理学部危機管理学科 教授 権純珍
講演2:金融の安全・安心とは~老後の人生と金融リスク~
千葉科学大学危機管理学部 教授 木村栄宏
講演3:最近のFintech事情について~キャッシュレス化最先進地域中国深圳視察等を踏まえて~
玉島信用金庫 副理事長 宅和博彦氏

4 【危機管理にかかわる他学会、他組織での関連イベント・行事等】

○平成30 年度全国学校保健・安全研究大会
「生涯を通じて、心豊かにたくましく生きる力を育む健康教育の推進」
~自ら健康で安全な活力ある生活を送ることができる子供の育成~
・主催:文部科学省、鹿児島県教育委員会、鹿児島市教育委員会、(公財)日本学校保健会、鹿児島県学校保健会
・日程:2018 年10 月25 日(木)~26 日(金)
・場所:鹿児島市民文化ホール、鹿児島サンロイヤルホテルほか(鹿児島市)
・詳細:https://www.pref.kagoshima.jp/ba06/documents/65231_20180810145029-1.pdf


○日本災害情報学会20 周年記念大会/日本災害復興学会10 周年記念大会
・主催:日本災害情報学会/日本災害復興学会
・日程:2018 年10 月26 日(金)~10 月28 日(日)
・場所:東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)
・詳細:http://www.jasdis.gr.jp/01gakkai_taikai/index.html


○日本交通心理士会第15 回札幌大会
・主催:日本交通心理士会
・日程:2018 年10 月27 日(土)~28 日(日)
・場所:京都市国際交流会館イベントホール(京都市左京区)
・詳細:http://jpt2018.fem.jp/


○2018 年度防災教育交流フォーラム
・主催:防災教育チャレンジプラン実行委員会、内閣府(防災担当)、防災科学技術研究所
・日程:2018 年10 月27 日(土)~28 日(日)
・場所:東京大学地震研究所1 号館(東京都文京区)
・詳細:http://www.bosai-study.net/


○地域安全学会第43 回(2018 年度)研究発表会(秋季)
・主催:地域安全学会
・日程:2018 年11 月2 日(金)~3 日(土)
・場所:静岡県地震防災センター(静岡市)
・詳細:http://isss.jp.net/


○平成30 年度未来につなぐ学校と地域の安全フォーラム
・主催:宮城県教育委員会(スポーツ健康課×生涯学習課)・東北大学災害科学国際研究所防災教育国際協働センター
・共催:岩沼市教育委員会・国土交通省東北地方整備局
・日程:2018 年11 月22 日(木)9:15~16:30
・場所:岩沼市民会館(宮城県岩沼市)
・詳細:近日公開(http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/supoken/anzen.html


○第9 回アジア地域セーフコミュニティ厚木会議
「自助・共助・公助による安全の創出」
・主催:日本セーフコミュニティ推進機構ほか
・日程:2018 年11 月12 日(月)~15 日(木)
・場所:レンブラントホテル厚木、アミュー厚木(厚木市)
・詳細:http://scatsugi2018.com/


○日本セーフティプロモーション学会 第12 回学術大会
「“ひきこもり”について考える」
・主催:日本セーフティプロモーション学会
・大会長:辻 龍雄
・日程:2018 年11 月24 日(土)〜25 日(日)
・場所:山口大学医学部 霜仁会館(宇部市)
・詳細:http://plaza.umin.ac.jp/~safeprom/12jssp/index.html


○日本学校保健学会第65 回学術大会
「子どもの生活認識に寄り添う保健教育と学校保健」
・主催:日本学校保健学会
・学術大会長:住田 実(大分大学教育学部 教授)
・日程:2018 年11 月30 日(金)~12 月2 日(日)
・場所:ホルトホール大分(大分市)
・詳細:http://jash.umin.jp/


○第15 回日本地震工学シンポジウム
・主催:日本地震工学会(幹事学会) ほか
・日程:2018 年12 月6 日(木)~8 日(土)
・場所:仙台国際センター(仙台市)
・詳細:http://www.15jees.jp/


○第14 回 教育と安全フォーラムin ひろしま
「みんなで考えるこれからの学校安全“ひやり、ハッとから学ぶ”」
・主催:日本安全教育学会
・主管:日本安全教育学会広島実行委員会
・日程:2019 年1 月26 日(土)9:05~16:30
・場所:広島国際大学広島キャンパス(広島市)
・詳細:http://anzen-kyoiku.sakura.ne.jp/hiroshima_h30.pdf


○第43 回全国・東京都学校安全教育研究大会
・主催:全国学校安全教育研究会・東京都学校安全教育研究会
・日程:2019 年2 月15 日(金)
・場所:東京都墨田区立外手小学校(東京都墨田区)
・詳細:https://www.anzenken.com/


○第24 回日本集団災害医学会総会・学術集会
「多職種連携と世代交代」
・主催:日本集団災害医学会
・会長:本間正人(鳥取大学医学部 器官制御外科学講座 救急・災害医学分野 教授)
・日程:2019 年3 月18 日(月)〜20 日(水)
・場所:米子コンベンションセンター ビッグシップ/米子市文化ホール(米子市)
・詳細:http://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/jadm2019/


◆会員に周知や紹介したいイベント・行事等がございましたら、行事名、主催、日時、場所詳細リンク先 等を、総合危機管理学会事務局(info@simric.jp)までお送り下さい。

 ※ご住所や連絡先,ご所属や職名,書類等送付先の変更・訂正は,郵便,メール,またはFaxで下記の学会事務局までご連絡ください。

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総合危機管理学会 事務局

 千葉県銚子市潮見町3  千葉科学大学危機管理学部内

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