総合危機管理学会(SIMRIC)通信 No.12   2021/03/15

 SIMRiC通信では、危機管理に絡む多様なエッセイやコラムを、会員の皆様から募集しております。論文にする前の研究ノート的な内容でもかまいません。是非、事務局まで、気楽にご投稿いただければと存じます。また、本号では、今年度開催を延期した学術集会・大会の開催(ZOOM)案内を掲載しております。是非、多数の方のご参加をお待ちしております。

◇コンテンツ◇
1 【総合危機管理学会 コラム】
・我が国の今後の国際平和協力活動の在り方、方向性について(佐藤 庫八)
2 【総合危機管理学会からのおしらせ】
   ・ 次回学術集会について(第5回学術集会及び総会について)
  ・ 学会誌 総合危機管理第5号発刊について
  ・ 学術論文投稿のお願い
3 【関連学会・関連イベント情報】

【総合危機管理学会 コラム】

我が国の今後の国際平和協力活動の在り方、方向性について 千葉科学大学 佐藤 庫八

はじめに

 本稿は、日本戦略研究フォーラム(JFSS)が、平成29、30年度の2年間にわたり外務省総合外交政策局が主催する「外交・安全保障調査研究」事業に応募して、平成31年4月に調査研究結果を最終報告したものを要約したものです。
 私は、この調査研究活動のサブリーダーとして本報告書を取り纏めました。
 本稿においては、第一に調査研究の概要について、第二に調査研究活動を通じての私の所見を述べることとします。
 最終提言を行って2年を経過しようとしていますが、我が国の国際平和協力への取り組みは遅々として進んでおりません。この場を借りて、現在の課題を認識して頂きたいと思い投稿いたします。

1 調査研究の概要

(1)    外務省補助金事業の目的
外務省(総合外交政策局政策企画室)が行う補助金事業には3種類があります。
発展型総合事業、総合事業及び調査研究事業の3種類で、私たちは調査研究事業に応募して採用され、2年間毎年度2千万円の補助金を得て調査研究を行ってきました。
3事業共通の目的は、外交・安全保障に関する我が国の調査研究機関の活動を支援し、同調査機関の情報収集・分析・発信・政策提案能力を高めることにあります。

(2)    調査研究事業
調査研究事業には次の5つの分野があります。
A:国際政治及び国際情勢一般、B:安全保障、C:経済・地球規模課題、
D:海洋をめぐる問題、E:新領域(サイバー・宇宙・AI)をめぐる問題
私たちはBの安全保障に応募し、調査研究を行ってきました。
     
(3)    審査結果
2年計画の調査研究であるが、1年終了時に中間報告を、2年目に最終報告を行いました。いずれも「A」評価でした。
 評価基準は5段階であり、その細部は次のとおりです。
  A+:補助事業の目的・意義に照らして、期待以上の進展が認められる。
  A :補助事業の目的・意義に照らして、期待通りの進展が認められる。
  A-: 補助事業の目的・意義に照らして、概ね期待通りの進展が認められる
が、一部に遅れが認められる。
        B :補助事業の目的・意義に照らして十分な成果が得られているとは言い難
く、次年度補助事業の実施に当たっては当初の計画の一部変更も検討す
べきである。
    C :補助事業の目的・意義に照らして、また、初年度事業の結果を踏まえる
と、継続的に事業を実施しても成果を見込むことが困難なため、次年度
補助事業の中止を含めた各種是正措置をとることが適当である。
    
(4)    研究の背景、目的、意義
補助金事業への応募の際、外務省に申請した研究の目的等の概要は次のとおりです。
  ① 研究の背景
    本研究は、2016(平成28)年3月に施行した「平和安全法制」と我が国の外交・安全保障政策を結ぶ付けるものである。我が国は、従来、国際平和協力活動に必ずしも主体的に取り組んではおらず、ともすれば場当たり的に対応せざるを得ない状態であったと言っても過言ではない。
 「平和安全法制」は、新たな任務として国際連携平和安全活動の実施、国際平和共同対処事態における協力支援活動の実施などが追加された。具体的には、「在外邦人の保護・救援」活動、国連PKO現場における「駆け付け警護」、有志連合国への貢献など、従来行われなかった活動も任務としており、これらに有効に対処するためには総合的な外交・安全保障政策との整合性が課題である。
  ② 研究の目的
    平和安全法制の成立により我が国は国連平和安全維持活動の業務内容を拡充するほか、国際連携平和安全活動の実施、国際平和共同対処事態における協力支援活動の実施など、より幅広く国際の平和と安全に寄与する活動の枠組みを構築した。
 本研究により、国際平和協力活動の現場における外国軍隊の活動状況を調査しておくことは、平和安全法制が整備されたばかりの我が国の外交・安全保障政策を遂行する上で十分な検討資料を提供できると確信している。
 また、関係者の聞き取り調査による我が国の法制の評価及び関係諸国の実施の枠組みを現地調査することで、今後我が国が国際の平和と安全に、より積極的に関与していくための方途を提案し、更なる法制整備に反映させるべく改善提案を行っていくことができる。
  
(5)    研究の方法
本研究は、2017(平成29)年、2018(平成30)年の2年間をかけて行いました。平成29年度は主として国際連合平和維持活動に係る調査研究を、平成30年度は主として国際連携平和安全活動、国際平和共同対処事態における協力支援活動に係る調査研究を行ってきました。
調査研究の方法は、研究会:16回、聞き取り調査:15人、自衛隊の部隊等訪問:6機関、海外機関の訪問:7機関、公開セミナー:1回です。
① 聞き取り調査
  聞き取り調査の対象者は、次のとおりです。
   元陸上自衛官5人、元海上自衛官2人、外国軍人1人、政治家1人、報道機関2人、
政党関係者1人、研究所員2人、JICA職員1人
    聞き取り調査の記録は外務省のHPで確認して下さい。
       
② 自衛隊の部隊等訪問
  平成29年度は派遣海賊対処行動支援隊(ジブチ)、陸上自衛隊国際活動教育隊
(駒門駐屯地)、第9師団司令部(青森駐屯地)を、平成30年度はモンゴルで行
われている「カーン・クエスト2018」の研修、在日米陸軍司令部法務部(座間)
を訪問しました。
 各部隊で聴取したい主要関心事は武器の使用でした。
 
  ③ 海外機関の訪問
    国連本部に2回、オランダ外務省・国防省・NATO本部、エチオピア・ウガンダ、大韓民国、ガーナ、オーストラリア国防省を訪問しました。
   特に国連本部には2年連続訪問しました。主として国連平和維持局を中心に、同局の組織改編の状況を把握するとともに、日本の国連平和維持活動参加に当たって期待されている役割の調査及び平和安全法制成立後の日本の国際平和協力に関する認識の共有を図ることができました。
  
④ 公開セミナー
    青山学院国際研究センターと日本戦略研究フォーラムの共催でセミナーを行いました。 テーマは「アフリカにおける国際平和活動部隊を派遣することは~MINUSMAにおけるオランダの経験を通じて~」でした。
   
(6)    提 言
調査研究を通じて得られた教訓等を踏まえて、提言を行いました。提言は、当面処置すべき事項と中長期で検討すべき事項に区分し、さらに、それぞれ法律上、政策上、運用上に区分して整理(別紙「提言事項」)しました。
 提言事項として整理する過程は、先ず(5)の調査研究対象者からの提言及び我々の分析事項をすべて列挙し、次いで、提言に盛り込むべき事項として、列挙した内容を法律上、政策上、運用上に区分して再整理しました。
そして、優先順位の高いもの、実行可能性の高いものを最終的な提言事項としたのです。
   細部は、外務書のHP(外交政策>外交シンクタンクとの連携>国際共同研究支援事業費補助金>30年度審査)で確認して頂ければ幸いです。

2 調査研究活動を通じての所見

 ① 提言事項を一つでも実現、実行して欲しい。
   この種検討は、ややもすると研究して終わりの例が多い。いわゆる研究のための研究である。今回我々が重視したことは現場の声を施策に反映することにあります。
   したがって、提言事項の当面処置すべき事項は優先度の高いものであり、是非とも具現化を図って欲しいと願っています。特に自衛隊の海外の施設警護のための武器使用権限を国内の施設と同様にするように早急に取り組んで欲しいものです。
② 国際平和協力活動における自衛の意味を理解して欲しい。
   「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書(平成26年5月15日)の「国連PKO等への協力と武器使用」の中に「国連PKOの活動の性格は、「武力の行使」のような強制措置ではないが、紛争当事者間の停戦の合意を維持し、また、領域国の新しい国づくりを助けるため、国連の権威の下で各国が協力する活動である。このような活動における駆け付け警護や妨害排除に際しての武器使用は、そもそも「武力の行使」に当たらず、憲法上の制約はないと解釈すべきである。」 
   私たち研究グループも同意見であり、政策上の提言事項に「武力の行使の意義について説明責任を果たすこと」を求めています。
③ PKOの現地、現場、現実を知って欲しい。
   今回、PKO等の現場で活動してきた多くの方々の話を伺うことができた。その中には公表はされていない状況、対応というものも聞くことができました。ただし、最終的にはその部分はすべて削除することしました。本人の希望であり、また、所属機関への配慮である。これは退職したあとにも続いています。
 これでは実態に即した対応、改善措置がなされないこととなります。
 この状態を改善するためには、総理をはじめ派遣を命じた責任者の積極的な現場進出が必要である。現地の状況を自分の眼でつぶさに見て、活動している隊員等の声に耳を傾け、改善方向を検討して欲しい。命令を出せば終わりという状態を見直して欲しいと強く願っています

さいごに

最終報告して既に2年を経過しました。未だ提言事項の検討に着手したとの情報にふれていません。国際平和協力活動への参加が不活発であるのも一要因であるかもしれません。
新たな参加への動きが出てきた時に、今回の研究成果が活かされれば幸甚であります。(了) 


総合危機管理学会からのお知らせ

【総合危機管理学会 第5回学術集会及び総会のご案内】

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総合危機管理学会 第5回学術集会及び総会のご案内
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          総合危機管理学会 第5回学術集会会長 佐藤和彦
 皆様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 新型コロナウィルスの感染拡大する状況を鑑み、2020年5月23日(土)に予定されておりました第5回学術集会及び総会の延期を発表しておりましたが、下記日程で、新型コロナウィルスの問題をテーマとし、Zoomを利用したオンライン形式で開催いたします。
本学術集会では関連学会はじめ、多くの方々にご参加いただき、活発な議論と交流の場として魅力のある集会を目指しております。今年も、企画演題の他、会員の皆様からの発表を募集しての、一般演題セッションを企画しております。皆様からの、参加・発表のお申込みを心からお待ちしております。 

        記
会期   : 2021年5月22日(土) 
会場   : Zoomウェビナーによるオンライン開催
大会テーマ: 新型コロナウィルス後の社会(仮)
学術集会会長: 佐藤和彦(一般財団法人 日本総合研究所)
参加費:無料(事前登録必要)  
学会ウェブサイト:http://www.simric.jp/conference
                 (参加申込 → http://www.simric.jp/conference/apply)
事前参加申込締切:5月14日(金)
一般演題発表申込締切:4月16日(金)

お問合せ先:総合危機管理学会 事務局
〒288-0025千葉県銚子市潮見町3番
TEL:0479-30-4636 E-mail:info@simric.jp

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一般演題発表のご案内
以下の通り、一般演題発表の募集を行います。発表を希望される方は、締切までに発表の申込をお願いいたします。(発表申込みをもって、同時に参加申込みといたします。)
発表の申込は、学会ホームページの発表申込みのページよりお申し込み下さい。
(発表申込み:http://www.simric.jp/conference/presentation

●一般演題の発表形式:Zoomによる口頭発表
●発表時間:口頭発表15分(発表数によって多少の時間調整があります)+質疑応答
      ※Zoomを利用したオンラインプレゼンテーションを行っていただきます。
●発表申込締切:4月16日(金)
●申込内容
(1)発表題目
(2)発表者名
(筆頭発表者は本学会会員に限ります。連名発表者に制限はありません)
(3)発表者所属
(4)発表内容の概要(要約)(250字程度)
(5)代表者(原則として筆頭発表者)の連絡先(連絡先住所、電話番号、E-mail)
●発表要旨提出について:
発表者には、申込み後改めてA4版1枚(2段組2000字程度)の要旨を提出していただきます。執筆要領は筆頭発表者に別途連絡します。

【機関誌「総合危機管理」第5号発刊について】

このたび、学会機関誌「総合危機管理」第5号を電子ジャーナルとして発刊いたしました。例年、総合危機管理には学術集会の内容を掲載しておりましたが、今年度は学術集会が中止になったため、会員より投稿された原著論文3編の掲載となっております。

機関誌「総合危機管理」http://www.simric.jp/journal (一括版)

J-STAGE  https://www.jstage.jst.go.jp/browse/simric/-char/ja

総合危機管理 No.5 (2021/03/11発行)  目次
  • 原著論文
    • 宮城県における動物取扱業の防災への取組み 福山 貴昭 他
    • 病院災害対応計画の促進を阻む要因 冨樫 千秋 他
    • 小型ドローン操縦教育におけるリスクマネジメントの視点の検討 海老根 雅人 他
  • 機関誌「総合危機管理」投稿規定
  • 編集後記
  •  

【学術論文投稿のお願い】

 学会誌「総合危機管理」では、随時学会員の皆様よりの学術論文の投稿を募集しています。ご投稿いただいた学術論文は査読手続きを得て、掲載が受理されたものより随時「総合危機管理」へと掲載いたします。投稿規定などは学会ホームページ(http://simric.jp/journal/information-authors/)で公開しておりますのでご確認ください。皆様の論文投稿を編集委員一同お待ちしております。

関連学会・関連イベント情報

○【オンラインセミナー】3.11から10年、日本の危機管理はどこまで向上したか?~これから求められる組織のレジリエンス力~
・主催:リスク対策.com(株式会社新建新聞社)
・日程:2021年3月25日(木)14:00~16:00(予定)(事前配信開始 13:30予定)
・場所:Zoomウェブナーによるオンラインライブ配信
・定員:300人
・参加費:無料 ※要リスク対策.com会員(無料登録可能)
・問い合わせ:新建新聞社 リスク対策.com セミナー運営事務局
〒102-0083 東京都千代田区麹町2-3-3 FDC麹町ビル7F
TEL03-3556-5525   E-mail: risk-t@shinkenpress.co.jp

○2021 年度地域安全学会総会・第 48 回地域安全学会研究発表会(春季)・公開シンポジウム
・主催:地域安全学会
・日程:2021 年 5 月 21 日(金)~22 日(土)
・場所:研究発表会・総会:米子コンベンションセンター(米子市)
懇親会:ANA クラウンプラザホテル米子(米子市)
公開シンポジウム:米子コンベンションセンター(米子市)
・詳細:http://isss.jp.net/isss-site/wp-content/uploads/2021/02/News_Letter_No.114.pdf
・※ 新型コロナウイルス感染症の情勢により研究発表会等のオンライン開催への移行、一部企画の開催中止など、予定が変更となる可能性あり

○日本交通心理学会第 86 回大会
・主催:日本交通心理学会
・日程:2021 年 6 月 12 日(土)~13 日(日)
・場所:東京エレクトロンホール宮城 会議室(仙台市)
・開催方式:ハイブリッド開催(オンライン開催+現地開催) 
・詳細:https://jatp2021.info/index.html

○日本科学教育学会第 45 回年会
・主催:日本科学教育学会
・日程:2021 年 8 月 20 日(金)〜22 日(日)(3 日間)【予定】
・場所:鹿児島大学
・詳細:https://jsse.jp/jsseam/32-2

○第 40 回日本自然災害学会学術講演会およびオープン・フォーラム
・主催:日本自然災害学会
・日程:2021 年 9 月 10 日(金)~12 日(日)
・場所:徳島大学(徳島市)
・詳細:https://www.jsnds.org/


※ご住所や連絡先,ご所属や職名,書類等送付先の変更・訂正は,郵便,メール,または
Faxで下記の学会事務局までご連絡ください。
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総合危機管理学会 事務局
千葉県銚子市潮見町3 千葉科学大学危機管理学部内
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