総合危機管理学会(SIMRIC)通信 No.05 2019/02/15

今回のコラムは、本学会の黒木尚長 常務委員によるもので、まさに個々人における健康・医療の危機管理に関するものです。大変注目すべきものとなっています。
また、既にメールにてご案内しておりますが、「総合危機管理学会 第4回学術集会及び総会のご案内」を載せております。今回の学術集会テーマは、「AIが総合危機管理を支援するツールと成りえるのか?」(仮題)であり、誠に時宜を得たものであると同時に、学会員それぞれがご自分の立場、役割や業務等により、多様なスタンスをもたれることと想定します。まさにダイバーシティ(文化や生物や人材の多様性だけではなく、危機管理も多様性ではないでしょうか)と、AIの融合・総合・分化?を探る、大変おもしろい内容になると期待されます。是非、奮ってご参加・ご発表・問題提起等々をしていただければと存じます。
このSIMRiC通信は、学会員の皆様による時宜を得たエッセイをはじめ危機管理に関する意見や提言などを通じて活発な議論の一助や行動に繋がることも期待して発刊しております。是非、投稿等、どしどしお寄せ下さい。(常務委員会)
◇コンテンツ◇
1 【総合危機管理学会 コラム】 (黒木尚長)
2 【学会からのおしらせ】
   (1) 総合危機管理学会 第4回学術集会及び総会のご案内
         (2) 学会誌「総合危機管理」編集委員会報告【進捗報告および学術論文投稿のお願い】
3 【危機管理にかかわる他学会、他組織での関連イベント・行事等】
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1 <総合危機管理学会「コラム」>

●「入浴中の事故」に思う            千葉科学大学 危機管理学部 医療危機管理学科 教授・医師 黒木 尚長

 日本では、「入浴中の事故」は今も増え続けているようだ。入浴中の事故死の数は年間19,000人と推計されており、ほとんどが高齢者である。
世の中は、実は、「正しくない情報(Fake News ?)」に満ちあふれており、その結果、今も事故は減る兆しが見えてこない。われわれの研究成果がまだ広まっていないことが主たる要因ではあるが、ちょっとやそっとで、ヒートショックが原因で事故が起こるという定説を崩すのはむつかしい。そろそろ、事故が減らないのであれば別の原因があると騒ぎだしてもいいのではないのだろうか?
 入浴中にのぼせたりすることはよくある話であり、それを事故と言えばそれまでであるが、救急車を呼ぶことはまれである。なぜか救急搬送されるほとんどが浴槽内で命を落とし、8%しか助からない。
 なぜ入浴中の事故が起こるのかについては、次号の「総合危機管理」に掲載される拙著の論文で詳述するが、簡単にまとめると以下のようになる。
高齢者で入浴中に具合の悪くなった人は1割程度で、いずれも救急車を呼ぶようなものではない。その8割は熱中症の症状で、ヒートショックを示唆するものはわずか7%にすぎない。老人ホームでの入浴中の重大事故を調べると、事故自体が大変少なく、時に心臓突然死がみられるものの、ほとんどが熱い湯での長風呂(42℃・30分以上)が原因と考えられる、一人入浴での浴槽内事故であることがわかった。たとえ、初めてであっても、熱い湯での長風呂(42℃・30分以上)を行えば、誰もが、40℃以上の体温になり意識を失い、42.5℃以上で心室細動がおこり死亡する。今までは、ヒートショックが主たる原因とされていたが、実際にヒートショックで救急搬送されることはまずない。2年ほど前に、風呂の事故の多くは熱中症ですよと言って、テレビ出演させていただき、お風呂の実証実験をさせてもらったが、その時は、成人男性2名に41℃の湯に20分浸かっていただいたところ、体温は見事に39℃まで上昇し、のぼせなどの症状がみられ、熱中症は誰にでも簡単に起こりうることを実証できた。
 11月26日の「いい風呂」を間近に迎える頃、毎年のように、「冬季に多発する入浴中の事故にご注意ください!」と消費者庁は注意を促し、マスコミも「ヒートショックに注意しましょう。熱い湯に注意しましょう」と新聞やテレビやラジオの中で、頻繁に取り上げられている。でも事故は減らない。高齢者が増加しているのが原因だと思われているからであろうか。
 消費者庁が行う注意喚起は、いつもと変わりがなく、以下の6項目になっている。
  (1)入浴前に脱衣所や浴室を暖めましょう。
  (2)湯温は41度以下、湯に浸かる時間は10分までを目安にしましょう。
  (3)浴槽から急に立ち上がらないようにしましょう。
  (4)食後すぐの入浴、またアルコールが抜けていない状態での入浴は控えましょう。
  (5)精神安定剤、睡眠薬などの服用後の入浴は危険ですので注意しましょう。
  (6)入浴する前に同居者に一声掛けて、見回ってもらいましょう。
 確かに、この6項目の全てが守られていれば、「入浴中の事故」はほぼゼロになるはずと、わたしも考えている。ならば、なぜ事故が減らないのかについて真剣に考える必要があろう。特に「(2)湯温は41度以下、湯に浸かる時間は10分までを目安にしましょう。」をちゃんと守っている人は少ないのである。漫然とした、このような注意喚起では不十分であることを自覚しなければいけないが、これを法制化すれば、事故はほぼゼロに近づくはずである。
 現実として、この6項目が守られていないために多くの人が亡くなっている。「消費者庁注意喚起遵守義務違反」といえばそれまでであるが、その違反の罰則がほぼ「死亡」というのは余りにも酷と思われる。守るべき事柄が多すぎるから守れない。どこに重点的に注意すれば防げるのかがポイントとなる。ただ、現状では、「入浴中の事故」の原因はよくわからないとのことになっている。
 では、これまでのマスコミによる入浴事故に関する報道について眺めてみよう。
 新聞が世に出るようになったのは、幕末の1862年のことである。明治時代に入ると、文明開化の流れに乗って新聞が多数創刊され、明治政府は新聞の普及が国民の啓蒙に役立つという認識から、新聞を積極的に保護する政策を取った。1874年に『讀賣新聞』が創刊されたが、わたしの知る限りでは、1875年には銭湯で発生する急死が記事になっている。以降、年1回程度であるが、そのような報道は度々なされており、酔っていたとか、てんかんの持病があるとか、脳卒中だったとか様々な記載がなされていたが、家での入浴事故についての記事はほとんどなかった。だが、家庭での風呂の事故は少なからずあったものと思われる。高齢者が多かったため、寿命だと思われ、病死とずっと思い込まれていたようである。このように、当時から自宅でも入浴事故が少なからず起こっていたことは想像に難くない。
 入浴については、よく警鐘が鳴らされていた。古くから熱い湯は危険だと言われており、酒に酔って入浴するのは危険であることはよく言われていた。42℃以上だと一般的に入浴直後に血圧が急上昇し、湯温が高いほど、高血圧の人ほど顕著に表れるとされ、1~2分ほどたつと血管が拡張するため血圧が低下し、4~5分すると再び上昇するとされていた。また、42℃の風呂に10分入ると、脈拍が50~60%増加し、45℃に10分なら、70~80%増しになると言われ、熱い湯は体の負担になり、高血圧や心疾患のある人は熱い湯は避けるべきであるとされていた。このようなことが新聞に掲載されたのは40年も前のことである。
 高齢者の入浴事故が多いことが報道されたのは昭和63年のことである。高齢者の入浴中の死亡事故が、交通事故死よりも上回っていることに、「成人病診察室」の著者の足利市本町、足利赤十字病院副院長である奈良昌治医師らが気づいたことにはじまる。同医師らは、「風呂の1人入浴、長湯、熱湯は避けましょう」と言っていた。またこの事故を防止するには、(1)2人以上で入浴するか、1人の場合、ときどき家族が声をかけてやる(2)酒に酔って入らない(3)温度は40±2℃以内で、湯につかる時間は、1回当たり8分止まりで計2回、を提唱していた。しかしながら、その後はなぜか、「1人入浴、長湯、熱湯は避けましょう」という内容の記事に触れることはなくなった。
 「冬は浴室の外と中の温度差が大きいため、風呂に入ると血圧が急に上昇し、心筋梗塞や脳内出血を起こしてしまうのでしょう」とあり、これが世間の賛同を得たようで、その後は、毎年冬になるとそのような記事が出され、温度差が大きいと発作が起きやすいと記載されるようになった。
 「浴室で溺死するケースは、動脈硬化などの持病を持っている人がほとんどです。寒くて縮まった血管が入浴することで広がる。全身に血液を送ろうとするため、心臓に負担がかかり、心筋梗塞などの発作を起こす例が多いのです。特に冬場や冷え込んだ時は危険です。居間や脱衣場、湯船の温度差が大きいため、このような発作が起きやすいのです。難しいかもしれませんが、温度差ができないように工夫するのが大切ですね。」、「急激な温度変化が、高齢者の脳や心臓によくない。そこで、脱衣場と浴室は暖房器具などで暖めておく。湯の温度はぬるめにする。ぬるめの湯にゆったりつかった方が湯冷めもしない。どうしても熱い湯でなければという人の場合は、初めぬるくして次第に熱くすることが可能なら、そういう入り方もいい。」、「浴室は22℃以上が目安です。浴室が寒いと不快ですし、心臓にもよくない。お年寄りの事故にもなりかねません」、「寒い脱衣場と熱いおふろといった温度の変化で、血圧が急激に変化するのが原因らしく、特に冬場が飛び抜けて多い。注意すれば、入浴中の突然死は防げる。血圧変化の危険性をもっと認識して」などの記事が相次いだ。
 その結果、エビデンスのないままに、ヒートショック説が出現し、浴室暖房とともに定着し、今も一世風靡しているのである。なお、入浴事故と関わる医学論文に「ヒートショック」という用語が用いられたのは2016年になってからである。
 私自身、縁あって法医学教室で働くようになり監察医も兼務していたことから、入浴事故と関わり続け、まる30年になる。当時からずっと入浴事故の原因について考えてきたが、熱い湯での長風呂による熱中症がほとんどであるとは夢にも思わなかった。ただ、マスコミのいうようにヒートショックが原因だとは思っていなかったし、そのように考えている研究者も実は少なかった。ただ、なぜ意識をなくして溺れるのか、なぜ浴槽内で急死するのかがわからなかった。入浴事故にあう高齢者の多くは高血圧や糖尿病などの持病があり、多くが心臓突然死で、残りが意識なくして溺れた溺死と思い込んでいた。定説に疑問を感じ、徹底した入浴事故研究が官民一体で行われていれば、もっと早く原因が明らかになったかもしれない。今後、消費者庁が行う注意喚起を、
   (2)湯温は42度以下、湯に浸かる時間は30分までを目安にしましょう。
 と変更してくれるだけで、入浴事故による犠牲者が1割弱にまで減少するかもしれない。

2【学会からのお知らせ】

(1) 総合危機管理学会 第4回学術集会及び総会のご案内

総合危機管理学会第4回学術集会を、下記の通り開催いたします。今年も、企画演題の他、会員の皆様からの発表を募集しての、一般演題セッションとポスターセッションを企画しております。皆様からの、参加・発表のお申込みを心からお待ちしております。
 日時   : 2019年5月26日(日) 10:00 ~ 17:30
 場所   : 東京理科大学 神楽坂キャンパス (〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3)
 学術集会会長: 佐藤幸光(人間総合科学大学 人間科学部)
 学会テーマ: 「AIが総合危機管理を支援するツールと成りえるのか?」(仮題)
 参加費:会員 3,000円  非会員 5,000円  学生 無料
  (※参加費等のお支払いは、学術集会当日受付にてお願い申し上げます。)
 懇 親 会 費:5,000円
 事前参加申込締切:5月17日(金)
 一般演題発表申込締切:3月31日(日)
 参加を希望される方は、大会ホームページ( http://simric.jp/conference)の参加申込みのページより参加申込をお願いします。
    (参加申込み:http://simric.jp/conference/application2019)

一般演題申込みについての詳細は、以下より参照ください。
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一般演題発表のご案内
以下の通り、一般演題発表の募集を行います。発表を希望される方は、締切までに発表の申込をお願いいたします。(発表申込みをもって、同時に参加申込みといたします。)
発表の申込は、学会ホームページの発表申込みのページよりお申し込み下さい。
(発表申込み:http://simric.jp/conference/presentation)

●一般演題の発表形式:口頭発表あるいはポスター発表
●発表時間:口頭発表15分(発表数によって多少の時間調整があります)
またはポスター発表(昼食休憩時間を予定しています)
●発表申込締切:3月31日(日)
●申込内容
(1)発表題目
(2)発表者名(筆頭発表者は本学会の会員であることが必須になります。)
(3)発表者所属
(4)発表内容の概要(要約)(250字程度)
(5)希望する発表の種類:口頭発表・ポスター発表
        ※申込内容の審査や編成の都合により、発表の種類はご希望に添えない場合があります。
(6)代表者(原則として筆頭発表者)の連絡先(連絡先住所、電話番号、E-mail)
●発表要旨提出について:
発表者には、申込み後改めてA4版1枚(2段組2000字程度)の要旨を提出していただきます。執筆要領は筆頭発表者に別途連絡します。要旨の提出締切は4月27日(土)となります。

 (2) 学会誌「総合危機管理」編集委員会報告【進捗報告および学術論文投稿のお願い】

 昨年5月に開催した総合危機管理学会学術集会の内容を中心とした学会誌「総合危機管理」の第4号は、まもなく学会HPにアップする予定です。
 また、学会誌「総合危機管理」では、随時学会員の皆様よりの学術論文の投稿を募集しています。ご投稿いただいた学術論文は査読手続きを得て、掲載が受理されたものより随時「総合危機管理」へと掲載いたします。投稿規定などは学会ホームページ(http://simric.jp/journal/information-authors/)で公開しておりますのでご確認ください。皆様の論文投稿を編集委員一同お待ちしております。

3 【危機管理にかかわる他学会、他組織での関連イベント・行事等】

○第43 回全国・東京都学校安全教育研究大会
・主催:全国学校安全教育研究会・東京都学校安全教育研究会
・日程:2019 年2 月15 日(金)
・場所:東京都墨田区立外手小学校(東京都墨田区)
・詳細:https://www.anzenken.com/

○仙台防災未来フォーラム2019
「主役はマルチステークホルダー わたしが知る・行動する防災の未来へ」
・主催:仙台市
・日程:2019 年3 月10 日(日)10:00~17:30
・場所:仙台国際センター展示棟(仙台市)
・詳細:https://sendai-resilience.jp/mirai-forum2019/

○第24 回日本災害医学会総会・学術集会
「多職種連携と世代交代」
・主催:日本災害医学会
・会長:本間正人(鳥取大学医学部 器官制御外科学講座 救急・災害医学分野 教授)
・日程:2019 年3 月18 日(月)〜20 日(水)
・場所:米子コンベンションセンター ビッグシップ/米子市文化ホール(米子市)
・詳細:http://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/jadm2019/

◆会員に周知や紹介したいイベント・行事等がございましたら、行事名、主催、日時、場所詳細リンク先 等を、総合危機管理学会事務局(info@simric.jp)までお送り下さい。

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総合危機管理学会 事務局

 千葉県銚子市潮見町3  千葉科学大学危機管理学部内

 email info@simric.jp, tel 0479-30-4636, fax 0479-30-4750

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